· 

経験効果 戦略の注意点と限界

技術経営

 中小製造業の商品開発を伴走・支援 TECH-TOSHIです。 

今回は、東京理科大学 MOT(技術経営)における 経営戦略とマーケティングに関連する講義から、『経験効果 戦略の注意点と限界 』について、ご紹介します。 

 

1.ポイント

内容は、『経験効果によるコストのリーダーシップは永遠ではない。でした。

 

 1)経験効果を追求する戦略の注意点

  ▷製品ライフサイクルの遅い段階や成長率の低い市場では困難。

  ▷競合より早く市場シェアを拡大する必要があり、生産キャパシティの拡大、新たな販売経路の開拓、広告やマーケティング活動
   への投資が不可欠。よって、低収益・高コストになりやすく、リスクの高い戦略でもある。

 

  よって、経験効果を採用できるケースは、下記3つの条件が必要となる。

   ①その市場に、経験効果によりコスト上優位となれるセグメントが存在するか?

   ②その市場で、自社がリーダーになることは魅力的か?

   ③自社は必要な資源を保有しているか? 将来、保有できるか?

    

2)経験効果を追求する戦略の限界

  ▷永遠に効果を保ち続けられることはない。

   

   経験効果の戦略の限界として、

    ①市場ニーズの構造的変化、②技術革新によって、過去の経験の蓄積がコスト上の優位を保てなくなることが指摘されている。

   

   事例)フォードの「T型」が市場リーダーの地位にあったが、市場ニーズの変化により、GMに市場リーダーの地位を明け渡した。

 

  ▷短期間に経験効果を蓄積するために、専門化した労働者や設備・組織を必要とする場合が多く、新しい市場ニーズや新しい技術へ

   の対応が困難となる『生産性のジレンマ』に陥ることがある。

 

出所)網倉、新宅、『経営戦略入門』、P184-187

 

2.講義からの気づき

 講義から気づいたことは、

 

 『市場ニーズの変化に常に注目すべき!』 です。

 

製品ライフサイクルの初期段階でコストリーダーの地位を確保できると競争を有利に展開が可能とのことですが、市場が現状維持をし続けることはありません。

 

市場のニーズの変化に対応しなければなりません。

 

技術経営

3.現状

以前、勤務していたITベンダーでの、IoT・DXの導入の稼働・作業状況の見える化のパッケージソフトウェア開発において、現状の顧客のニーズに合わせてサービスを取り込んだビジネスを提案しましたが、取り上げてもらえませんでした。

 

顧客からは、「データを取得してどのように活用したら良いのかわからない」という意見でしたので、導入時の構想とデータ活用の構想も含めての提案が必要と考えましたが、リーダーは「自社は、そこまではできないと思っている」として、競合がサービスも含めて顧客へ提案を行なってシェアを広げているにもかかわらず、サブスクリプションは取り入れたものの、従来のソフトウェアパッケージ(センシングシステム付き)売りでのビジネスモデルを変えようとはしませんでした。

 

明らかに、顧客におけるニーズは変化してきているにもかかわらず、従来のビジネスモデルであったこともあってか、売れ行きは芳しくなく、結果、外販は止めることとなりました。

 

4.解決策

 経験効果によるコストのリーダーシップは、従来は主にモノづくりにおいて用いられた戦略です 。

先行参入し、投資により経験効果の習得を先行して進め、低価格戦略で一気に市場のシェアを奪うという流れでした。

 

しかし、昨今は、IoT・DXにより、データを自動で取得 → 集計 → 見える化 → 判断 →  アクション というサイクルは、かなりの効率化が図れます。

 

つまり、IoT・DXの導入によるデータ自動取得・集計により、モノの製造→検査→データからのフィードバック のサイクル速度については、どの会社でも従来に比べ格段に速くなることから、経験効果の習得の速度も上げることができると思われます。

 

中国のスマホメーカーの小米(Xiaomi)は、スマホを一機種の限定発売から始めて、中国の国民的メーカーとなった企業ですが、

IoTプラットフォームを構築し、自社の設計・製造・販売におけるデータを取り込み、そこから得られたナレッジを自社グループ内だけでなく、パートナー企業にまでシェアし、生産・販売の効率を向上しコストを削減によるスマホの低価格販売を実現し、素早く市場シェアの獲得へと繋げたとのことです。

 

Xiaomiが、スマホの低価格販売から素早く市場シェアを獲得できた要因の一つとして、IoT・DXの導入から経験効果における習熟速度を加速できたためではないか とも思われます。

 

よって、顧客ニーズの変化もさることながら、技術の変化にも注目し、効果的な活用の仕方を模索することが必要です。

 

5.今後の課題

経験曲線を活用するには、投資が必要となりますので、その資源をどのくらい用意できるのかによって、低価格戦略が打てる期間が決まります。

 

限られた低価格の期間の中で、自社のシェアをとるための施策に注力することが必要です。サブスクリプションは一つの効果的な施策と思われます。

 

最後に、良くある誤解として、コストリーダシップ戦略は、必ずしも単なる低価格戦略ではないということに留意してください。

 

今回は、東京理科大学 MOTにおける 経営戦略とマーケティングに関連する講義から、『経験効果 戦略の注意点と限界』について、TECH-TOSHIよりご紹介しました。